はじめのいっぽ

自分の心と向き合う、はじめのいっぽ。

呪い。

台所の、真っ黒な排水口を掃除した。今日の仕事終わりは、なんだか機嫌がよかったから。

帰ってすぐ洗濯物も回したし、お風呂の排水口まで綺麗にした。今日は天気がよくて暖かくて、残業もあまりしなくて、だから今日急に思い立ってしまった。

 

 

君の使ったお風呂場も台所も、跡形もないようにしたくて、いろんなものを洗い流した。別にもう数日前の君の形跡なんて残っていないんだけど。今さらなんだけど。それでも今日思い立っちゃったから。今日、それが急に気持ちの悪いものに思えてきてしまったから。

 

きっとこれからも、ここをぱかっと開くたびに誰かのことを思い出す。すれ違う人混みの中に、一瞬だけ柔軟剤の匂いを感じるように。それが誰のものだったのか、誰を思い出す匂いなのか、一瞬すぎてもう分からないけれど、自分で意識もしないうちに感じとっていつまでもまとわりついてくる、強烈な匂い。

 

そんなことをぼんやり考えながら蓋を開けたら、目に映るものと思考が勝手に結びついていく。だから、これからもきっとよく分からない誰かの何かに嫌悪感を思い出しながら、ここを掃除することになるんだろう。ずっと。こうしてただただ邪魔なだけの呪いがいくつも増えていく。

 

 

大学生の頃に、きらきらな高校生を見て若いなと思ったように、大人になった今はだらしない大学生を見て若いなと思う。あの頃も今も大して変わらないはずなのに、大人になってからのだらしなさはただただ醜い。それでもまた、こんな今を若いなと思う時が来るんだろうと思って、やっぱり過去のどのタイミングにも戻りたくないなと思う。未熟な頃をもう一回過ごすのは、恥ずかしくて情けなくて。