休日の夜。
カウンターで1人、ビールを飲む。
「カウンターあります。おひとり様大歓迎!」の文字に誘われて、思い切って階段を上って入ってみた。
L字のカウンター席にテーブル席が4つくらい。お客さんはまばらで、カウンターの反対側では男女の2人組と店員のお兄さんお姉さんが楽しそうに会話をしている。
常連さんみたい。
お客さんの妹さんの名前を当てるゲームをしてる。
お客さんの名前は「みゆき」。妹は名前二文字だって。なんだろう。
流れてくる会話をぼんやり聞きながら、次は何を頼もうかなとメニューを眺め、ビールを流し込む。至福のひととき。
何がきっかけだったかもう忘れたけど、気づいたらそこの会話に混ざってた。
初めは耳に入ってきただけの他人の会話。隣でふーんと聞いて、なんとなくふふっと笑って、小声で適当に相槌を挟んだりなんかして、次第にみんなと視線があっていく。
人との境目がグラデーションになっていることに気づく。
発した言葉たちが空間にぽんっと浮かんで、その場にいるみんなのものになる。
地元はどこだとか、歳はいくつだとか、仕事は何してるとか、WBCは見たかとか、野球が好きだとか。
大して中身のないどうでもいい話。
明日になったら忘れてる話。
別に嫌なわけじゃないけど、まあこれ以上話すのはめんどくさいなあという話題になれば、「ま、色々あるよ。」と言えばなんとかなる。
「色々あるよなー。」で納得してくれる。
過去にも未来にも執着しない、ぽっかり浮かんだこの時間が好き。
始まりも終わりもない関係。
寂しくもないし、めんどくさくもない。
またここに来れば気軽に会える気もするし、もう会えない気もする。
また会えたらもちろん嬉しいし、でも会えなくてもいい。
きっとみんな、お腹の真ん中に似たものを抱えてる。
1人は好きだけど、孤独は嫌い。
自由が欲しいくせに、ほんの少し、寂しがり屋。
別にそんなこと口に出してわざわざ共感し合わないけど、たぶん、そんな人たち。
結局それでも人が好きなんだよなと、みんなを見て、自分を見て、思う。
自分じゃあまり頼まないジンジャーハイ。今日は美味しい。
ジョッキの側面を水滴が垂れていく。
身軽で自由で怖いものなんてない、ように振る舞っている。
でもこういう過ごし方が理想で、いつだって憧れなんだよなってちゃんと分かっているから。
だからそれを目いっぱい味わって、最後の一口をぐいっと飲み干した。